浴盤(たらいで湯浴みする女)

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   印象派の巨匠エドガー・ドガが手がけた裸婦像の代表作『浴盤(たらいで湯浴みする女)』。本作は1886年に、当時パリで最も有名だったレストラン≪メゾン・ドレ≫の3階で開催された(最後の印象派展となる)第八回印象派展に出典されたパステルによる裸婦像作品群の中の一点で、まるで無防備に水浴する女性を鍵穴から覗いているかのような感覚で描かれている独特の視点は、本作の最も大きな特徴のひとつである。

 

   この個人視点的なアプローチはアトリエでモデルに姿態を執らせて描いたもので、無理な姿勢を強いられたモデルの苦痛の言葉が残されている。ドガの描く水浴する女の根本は娼婦の心象・形象から発生したものであるが(性病感染の予防から当時、娼婦は全裸で水浴していたものの、一般的な女性は全裸で水浴することはなかった)、そこにはレンブラント(例:レンブラント作『バテシバ』)や、ブーシェ(例:ブーシェ作『水浴のディアナ』)など過去の巨匠らの描く裸婦像からの影響や関連性が指摘されている。