中景として描かれたアルク川地域の穏やかな風景

 遠景に広がるサント=ヴィクトワール山の堂々とした姿。本作はセザンヌの故郷であるエクス=アン=プロヴァンス(以下エクス)の東に位置する≪サント=ヴィクトワール山≫を、画家の生家ジャ・ド・ブーファン近郊からの視点で描いた風景画作品で、本作には1880年代以降のセザンヌの作品としては非常に珍しく署名の記されている。

f:id:arrata:20180106161830j:plain

 画面左側へ唐突的に配される松の大木。中景にエクスを流れるアルク川地域の穏やかな風景が、遠景には青く染まったサント=ヴィクトワール山の風景が描かれており、そして近景として画面左側に古典的でありながら唐突な配置には日本の浮世絵の影響を感じさせる大きな松の木が配されている。

 
 中景として描かれたアルク川地域の穏やかな風景。下地に塗られた明灰黄色を活かした、やや淡白で平坦的な調和的色彩表現にはセザンヌの画家としての革新性を見出せると同時に、故郷の情景に対する(セザンヌが抱いていた)深い敬愛の念をも感じることができる。